【質問】 こんにちは。僕は、愛知県の中学2年生男子です。 2002年に田中耕一さんがノーベル賞を受賞した質量分析法に関する質問をさせていただきます。田中耕一さんは分子量が多く、今まで質量分析できなかったタンパク質の分析法を開発しました。 そこで質問です。タンパク質と同じく分子量が巨大な核酸(DNAやRNA)は質量分析をすることができますか。また、それら(DNAやRNA)の分子量はおよそどれぐらいですか。 ご回答よろしくお願いします。 【回答】 質量分析はできます。但し「核酸」が何を指すかによって、答え方がかなり異なることになります。 核酸塩基は1単位当たりの平均分子量が330程度です。DNAならA、C、G、T、 RNAならA、C、G、Uのそれぞれ4種類ずつあり、それぞれ少しずつ分子量は異なり、その平均が330位になるのです。このDNA1単位が一直線につながって遺伝情報を形成し、人の場合は約31億個(実際は、これが23対の相同染色体に分かれています)、大腸菌の場合は400万個つながって、それぞれの個体全部の遺伝情報を持つゲノムDNAとなります。なお、ヒトゲノムDNAも大腸菌のゲノムDNAも2本鎖を形成しているので、一単位当たりの平均分子量は660位になり、ヒトゲノムDNAの全体の分子量は660 x 31億で、2兆を超えることになります。実際は23対の相同染色体に分かれていますから、そこまでは大きくありませんが、それでも大変大きい物質と言えます。もし、ご質問の「核酸」がこのヒトゲノムDNAを指すのであれば、通常の質量分析計で決定できるのは分子量数万程度までですので、これではとても無理のように思えます しかし、その場合、ヒトゲノムDNAを切断して、ひとつ当たり分子量数万程度の大きさに断片化すれば質量分析ができます。ヒトゲノムDNAは超音波やレーザーなどで切断することができますし、酵素を使って特定の塩基配列のところで切ることもできます。もちろんヒトゲノムDNAを対象とする場合は、膨大な数の断片に分ける必要がありますが、既にヒトゲノム解析プロジェクトの際に、塩基配列を決定するために断片化したヒトゲノムDNAは作製されています。田中耕一先生がノーベル賞を受賞される少し前、2000年より前の頃には、質量分析計によって塩基配列を決定する方法もかなり研究されていました。しかし、塩基配列を決定するだけなら、もっと簡単な方法が、その後たくさん発明されたので、ヒトゲノムDNAの分子量を測定する意味はあまりなくなってしまいました。 しかし最近はマイクロRNAなど、生命現象の中で重要な役割を持つ分子量数万程度の拡散がたくさん見つかってきていますので、こういう「核酸」の分子量を測定することが重要になってくる可能性は大いにあります。また、最近はエピジェネティクスと呼ばれる学問分野が生命現象を解き明かす鍵として非常に注目されており、核酸の修飾(核酸に対する様々な官能基の付与)の解析の重要性が増しています。核酸の修飾の解析には質量分析が有効である可能性が高く、そのような分野で、今後「核酸」の質量分析が重要になっていくと期待されます。関連する研究は、東京農工大学工学部生命工学科で行われています。 |