【質問】
こんにちは。高校一年の女子です。
あたたかい空気が持っているエネルギーを、生物のエネルギーに、例えばATPを合成するエネルギーに使う、というようなことは、新たに細胞小器官を人工で作るなどして、理論的には可能ですか?もしできたら、その生き物には申し訳ないと思いますが、例えば微生物や何か生き物を培養、飼育するのに、えさもあまりやらなくて、冷房になるかもと思いました。そうすれば、エネルギーの問題にも貢献するかもと思いました。倫理的な問題はとても大きいと思いますが、理論的にあり得るのか教えてください。
【回答】
あたたかい空気が持つエネルギーを取り出してATPを合成するということは、熱を仕事に変えるということになります。化学熱力学的には、熱を仕事に変えることはできますが、機械を利用した場合、その効率は非常に悪く、例えば現在使われている発電方法(火力発電、地熱発電など)では熱を利用してタービンを回して電気を取り出していますが、その効率は1割から2割程度と言われています。一方生物は熱を仕事に変える効率が高く4割程度の効率が可能と言われています。生物はブドウ糖などを酸化(酸素による燃焼ともいえます)して、その熱エネルギーの一部をATPに閉じ込めて、利用しやすい形でため込んでいます。ATPができる仕組みは、細かく言うとブドウ糖を酸化していく過程で、ミトコンドリアの内膜と外膜の間にプロトン(H+イオン)の濃度勾配を作ります。その濃度勾配が解消する(中と外での濃度差を元に戻そうという動き)際のエネルギーを利用してATP合成酵素がATPを作ります。つまり直接熱エネルギーをATPに変えているわけではありません。ということで、暖かい空気が持つ熱エネルギーを直接ATPに変える、もしくは熱エネルギーを利用してATPを合成する仕組みを生物は持っていないので、ご質問のような細胞や細胞小器官を作ることは難しいと思われます。
ただし、生物はエネルギーを熱産生に利用する仕組みは持っています。上に書いたプロトン勾配が解消するときのエネルギーをATP合成に利用せず、熱に変えてしまうたんぱく質がミトコンドリアにあります。この現象は寒いときに体温を維持するために使われています。このたんぱく質は脱共役タンパク質、またはサーモジェニンと呼ばれています。もしこのたんぱく質の働きの逆反応を行うようなタンパク質があればどうなるでしょう。つまり熱を利用して、ミトコンドリアにプロトン勾配を作り出して、その勾配でATP合成酵素を動かすということができれば、質問にあるような仕組みを生物で作り出すことができるかもしれません。しかし残念ながら脱共役タンパク質の反応は可逆反応ではなく、逆反応を触媒するようなタンパク質も今のところ見つかっていません。このたんぱく質の構造を詳しく調べて、逆反応ができるように変えてやるということがいつかはできるかもしれません。なお、タンパク質の立体構造を詳しく調べて、その働きを明らかにするというような研究や、遺伝子組み換えを利用してタンパク質の構造を変化させ、新しい機能をもつタンパク質を作り出すというような研究は、本学の応用生物科学科で行われています。
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