●科学なんでも相談室● No.10 【質問】 高校2年の女子です。
農工大の農学部に興味があり、質問に答えてくださると嬉しいです。
農工大ではブルーベリーの植物工場があるそうですが、どのような研究
をしているのですか? 【回答】 最近、農産物の安全や安心感を求めて、植物工場の設置が増えています。スーパーマーケットなどで、 植物工場産のレタスなどが販売されているのを見かける機会も多いと思います。植物工場では、葉を食べる野菜類(レタスなど)や、果実を食べる野菜(トマト等)のような植物を栽培、一年中生産・出荷するのが一般的です。その場合、種子を播いて、葉や果実を収穫すると、植物体は捨ててしまい、そこから種をとったり、翌年もその植物体を使用することは稀です。そのため、植物工場内は1年中ほぼ一定の温度等の環境に設定されています。
一方、農工大の「先進植物工場研究施設」は、少し変わっていて、果樹を栽培して果実の生産を行なう研究をしています。果樹ですので、樹体を毎年繰り返して使用することになりますし、果樹が花をつけて果実をならすには、寒さに当たるなど、四季を経ることが必要になります。そのため、農工大の植物工場には、季節を再現する部屋が6室(初春、春、夏、秋、晩秋、冬)が設けられていて、樹体を各部屋を移動させることで、果実の周年生産を行います。農工大は、我が国におけるブルーベリーの経済生産開始(1968年、小平市)に寄与した歴史があることから、果樹のモデルとしてブルーベリーを研究の対象に選びました。農工大の先進植物工場研究施設での研究は、主に4つのテーマで行なっています。
1)ブルーベリーの周年化と高収量化:先に書いたように、樹体を順番に初春、春、夏、秋、晩秋、冬を再現した部屋を移動させることで果実の周年生産を試みています。また、樹体が各部屋を移動するスピードをあげることで、1年に2回以上開花・結実し、収穫することを目指して研究をしています。さらに、環境(光強度、光波長、炭酸ガス濃度、温度等)を制御することで光合成効率を上げ、収量をあげることを目指しています。
2)植物工場は外界から隔離されているので、病虫害が発生せず、農薬を使用しないことが期待されています。しかし、病害虫を完全になくすことは実際には困難です。そのため、樹体の健康を守るため、健康管理技術、効率的な病害虫の診断技術や、安全な病害虫の防除技術の開発を試みています。
3)高付加価値化:ご存知のように、ブルーベリー果実はアントシアニンのような健康に良いとされる成分を多く含んでいます。果実の糖度(甘さ)や、有効成分の含有量を非破壊で検査する技術の確立、糖度が高く有効成分を多く含む高品質の果実を生産する技術の確立を目指して研究を行なっています。
4)知能化と省力化:農工大には農学部と工学部があり、工学部では、ロボットや画像解析等の技術の開発研究を行なっています。このような工学部で得意な技術を融合することで栽培技術を飛躍的に進歩させることを目指して研究をしています。例えば、環境や樹体の情報を自動的にサーバーに集めて記録する技術、樹体をロボット化して各部屋を自動的に移動する技術、光を効率的に利用するために樹体が自動的に移動する技術、果実の糖度や成分や柔らかさを認識して自動的に収穫するロボットの開発、病害虫の画像解析技術等の開発を行なっています。
農工大の植物工場は研究施設ですので、最先端の研究成果をご紹介し、それが実際の栽培施設に採用されることで社会に貢献し、みなさんの生活を豊かで安全にすることを期待しています。さらに詳しくは先進植物工場研究施設のホームページを御覧ください。また、オープンキャンパスなどで先進植物工場研究施設を見学する機会も設けていますのでご訪問ください。
(まもなくURLが http://www.tuat.ac.jp/~plant-f/index.html となり、新たなホームページが立ち上がります) |