No.14【質問】花火の色

2013/06/09 21:10 に www2 creator が投稿   [ 2013/06/10 0:46 に更新しました ]

【質問】

初めて質問します。高校2年、男子で某都立高校で科学部の部長をしています。

最近、僕の学校の科学部では花火の研究をしています。特に綺麗な青色花火を作ることを目標にして研究を半年程続けているのですが、そのことについてお尋ねしたいです。

まず、今現在は過塩素酸カリウムと硫黄をベースにして金属粉を入れて花火の研究をしています。中でも青色を出すための発色剤に硫酸銅無水和物を使っているのですが、いまいち上手く発色しませんでした。質量比はKClO4:S:CuSO4=2g:1g:1.5gで行いました。このことについてアドバイスを頂けると嬉しいです。

次に、炎の色について質問したいのですが、亜鉛粉、酢酸鉛()三水和物をそれぞれ火薬に混ぜた時に亜鉛が水色、酢酸鉛が白色を発色したのですが、このメカニズムについて教えて下さい。また、この時の質量比は

KClO4:S:Zn=1g:1g:1g

KClO4:S:(CH3COO)2Pb.3H2O

=2g:1g:2g

で行いました。

 質問は以上です、回答よろしくお願いします。

 

【回答】

 この質問の趣旨が「上手く発色させることができるような混合比を知りたい」ということでしたら,残念ながら「スッキリとした」回答はお返しできません。経験に基づいたプロの花火師さんにお任せするのがよいと思います。

 「それでも,何か手がかりになることでも」ということでしたら一緒に勉強するつもりで,化学的に掘り下げてみましょう。実は,花火の化学的解説はいろいろなところでみかけますが若干気になるところがあります。もちろん全てにそのように書いてあるのではないのですが,それは,「花火の光には「炎色反応」と「黒体輻射(熱輻射)」があり,はっきりしたきれいな色「炎色反応」によるもの,そして白い光は「黒体輻射」によるもの」,という下りのことです。

 白と黒を除いて,はっきりした色の光が見えているということは波長の幅の狭い光が見えているということを意味します。花火はくっきりとした光そのものです。したがって,きれいな色が「炎色反応」はよいでしょう。その後が気になります。

 花火の中には「酸化されるもの」と「酸化するもの」が入っています。酸化されるものの例としては 硫黄,酸化するものの例としては 過塩素酸カリウムなどがあります。それらが,何らかのきっかけ(昔なら導火線の火など)で「反応を始めさせられる」と急激に反応が起きて「空気中の通常燃焼では得られない『高温』が生じます。この高温が花火の光の源です。

 まず,炎色反応の光と高温との関係を整理してみましょう。炎色反応とはある種の元素の塩をバーナーなどの炎の中で加熱すると元素特有の色の光が出てくる現象です。これを理解するには原子の電子構造を知る必要があります。

 原子の中には原子番号と同じ数の電子が入っているのですが,電子がいる場所は決まっていて,元素-マンション名 主量子数-階 方位量子数-間取り 磁気量子数-窓の向き で部屋が特徴づけられているイメージで,収容人数の上限は2人(電子)でさらに「男役女役」とか「右利き左利き」とか,ある対称的な条件のペアが2人入るときの条件です。

 部屋にはエネルギー準位という家賃が設定されていて,階と間取りと窓の向きで家賃は決まります。普通は家賃の低い部屋から埋まっていきます。一番高い部屋が複数あって入る電子が複数あるときはまずひとりずつ入っていく,などの細則もあります。

 そうやって,中性原子なら原子番号の数まで,イオンであれば原子番号から価数を引いた数まで電子が部屋を埋めて,安定な集合団地ができています。ここに雷が来たり,熱風が突然来たりすると,電子は,元気はもらうは,慌てるはでより家賃の高いところに逃げ出したりもするのですが,結局居心地が悪いのでまた元の部屋に戻ってしまいます。その時に貰った元気を光や熱として放出するのです。

 炎色反応の光はこのときに放出された光で,この光の色は,上がった部屋の家賃(エネルギー準位)と降りていった先の家賃(エネルギー準位)の差に相当するものです。一方,炎色反応の推進役は元々が酸化反応に伴う熱なので,雷鳴とは違ってそんなに大きな元気は渡せません。原子のマンションが家賃の低い方から順に埋まっていった状態(基底状態といいます)の最も高い家賃の部屋に住む電子が,そこよりも一つ高い家賃に上がった状態(第一励起状態)になれる程度です。この家賃差がちょうど可視光のエネルギーとなっているものが花火に使われ,バリウム,銅,ストロンチウム,ナトリウムなど(の塩)です。当然それ以外の元素でもエネルギー準位の差に応じた光がでるのですが,家賃が決まっているので,出てくる光が花火に合っていないと上手くないわけです。もう一つ,重要なことがあって,それは,マンションの部屋の向きが同じでも少しずつ家賃に差が出たり,上の部屋に飛び込んだ時の位置で抜け道ができたり,さらに一つ飛び越えて高い部屋に上がったり,そんなことがいろいろ起こるのが現実の,普通の励起現象なのです。そうすると,すっきりとした光(=すなわちエネルギーの幅が狭い)を出す元素の方が珍しく,花火に使える元素が限られるのです。逆に言えば,白い光とはいろいろな波長の光が混ざったものですから,そういう普通の元素が発する光と考えるのが妥当だろうと考えられます。

 鉛の化合物はいろいろな光が混ざったのだろうと思います。亜鉛はこの場合,急激に酸化されたはずで,青白い光が出たとすると燃焼の際の熱でかなり高温になったように思われますが,亜鉛のイオンがうまいこと働いた可能性もあります。このように花火の光は酸化反応に伴って発生した高温状況で励起された金属(イオン)の発行で説明できると思います。

 大学の化学系の学科では学部の授業で原子の構造を勉強します。電子の部屋の家賃が決まるルール(エネルギー準位)や家賃の差のやりとり(電子遷移)の勉強もします。こういう式で計算できるというところまでは分かるようになりますが,その式には関係する要因がたくさんあって,結局は実験をしてみないとどのようなエネルギー=光になるか分かりません。そして,実験結果を式に当てはめて,「実際には電子の配置はこうなっているのだ」と考えたりするのです。そういうわけで残念ながらきれいな色の花火を作るのに「理論的に予測することは簡単には(事実上)できない」というありふれた結論になってしまいます。

 本当にきれいな色を出そうと思ったら試行錯誤しかないと思います。実験するときは必ず先生の指導の下で行なって下さい。繰り返しますが,花火屋さんに弟子入りするのが一番手っ取り早いと思います。

 

 さて,金属原子はこのように,電気伝導だけでなく,原子の内部の部屋や席の間でも動きやすい電子を持っています。この性質は花火の光を出すだけでなく,炭素と炭素の結合を作る,有機合成にも使えます。東京農工大学の有機材料化学科の尾池秀章研究室では,金属のこうした性質を利用して面白い形の分子や作りにくい分子を作ってみようという,有機金属化学,有機合成化学を勉強しています。

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